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構造スリットの欠落

第一審の調査では大津京ステーションプレイスのスリット設置全485箇所の内160箇所を調査した結果、不良個所が計17箇所見つかった。

控訴審での調査において構造スリットの欠落箇所が新たに60箇所以上発覚した。

解説:耐震スリットについて
鉄筋コンクリート系構造の建物において、柱や梁と壁がつながっている場合、その状況によっては一部の柱や梁に過大な力が生じることがあります。大地震発生時に大きな「せん断力」や「曲げモーメント」が発生すると、柱や梁に過大な力が集中してしまい破壊されることがあります。このような状態を回避するには、柱や梁と壁を分離する「すきま」を設ける必要があります。これに用いる製品を「耐震スリット材」と呼びます。殆どは既製品であり耐火性能や防水性能を有しているものもあります。
左図で、柱間Aは柱と梁のみで構成され壁は無いですが、柱間Bは窓の上下に壁が付いています。この垂れ壁や腰壁が柱にしっかりついていると、応力が中央の柱に集中してしまいます。これを回避するため、青い線で示された位置に耐震スリットを設けて、垂れ壁や腰壁を柱から分離します。

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下の写真は、型枠の施工中に耐震スリットを設置している参考例である。
耐震スリットはポリスチレンフォームを基材とするものが多く、非常に柔らかくて簡単に曲がる。だから施工現場では、特に慎重に扱わなければならない。
構造計算と構造図において指定された『耐震スリット』は、「指定どおりの位置に、定められた方法」で取付け施工を行なわなければならない。そうでなければ、構造計算を行なった「建物骨組のモデル化」と相違することになり、構造の安全性を確保できない可能性が大きくなるからである。

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施工された耐震スリットの状況には、

◆ 『耐震スリット』が壁コンクリートの内部で変形しているもの
◆ 『耐震スリット』が柱コンクリート断面の内部にまで食い込んで、柱の鉄筋と接触しているもの

がある。このような状態では、

◆ 耐震スリット付壁の剛性評価が、構造計算と相違することになり
◆ 柱に『耐震スリット』が食い込むことにより、柱の断面欠損が生じており
◆ 鉄筋と接触していることは、鉄筋のコンクリート被り厚さの不足となり

いずれも、構造耐力上重大な欠陥となる恐れが大きい。

施工不良の原因を推定する

施工不良の原因としては、

① 製品の選択と施工要領の不一致
② コンクリート打設計画や施工順序の設定ミス
③ コンクリート締め固め用バイブレーターの使用不良

などが考えられる。

① 製品の選択と施工要領の不一致
『耐震スリット』製品には、コンクリートを打設するときに掛かる圧力を処理するために、セパレーターなどにずれ止めを取り付けるなどの対処方法がある。現場では、それら取付け方法を徹底しなければならず、これを怠ると、コンクリート打設によってズレや歪みが生ずる可能性がある。

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② コンクリート打設計画や施工順序の設定ミス
コンクリート打設の際、型枠の、耐震スリットの片側からのみの押し流しで充填すると、コンクリート圧が過大になり、『耐震スリット』本体の変形や移動を招いてしまう。


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スリット部が空洞
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スリット材は無く、コンクリートが詰まっていた

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スリット材は無く、コンクリートが詰まっていた

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スリット材は無く、コンクリートが詰まっていた



第一審調査での構造スリット不良個所

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1階 構造スリット不良個所
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7階 構造スリット不良個所
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10階 構造スリット不良個所
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3階 構造スリット不良個所
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9階 構造スリット不良個所
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11階 構造スリット不良個所



日本建築検査研究所 岩山健一氏の鑑定意見書

<瑕疵(かし)- 3 : 構造スリットの欠落に関する事>
本件建物の東西方向( X 方向)は、耐震壁の無い、純ラーメン構造であり、ラーメンフレーム内の雑壁( 非構造壁)は、3 方完全スリットにより、切り離し、ラーメンフレームの変形性能に支障が無い様に設計されている。また、3 方完全スリット( 構造スリット)は、地震時などに非構造壁に損壊が及ぶことが無い様にすることも重要な目的である。本件建物調査では、後述に指摘する部位に構造スリットの施工が欠落しており、完全スリットによる改修が必要である。
・南面A 通り
① 2 階3 ~ 4 通り間のW 1 6 には、C 3 柱横の垂直スリット、及び水平スリットが欠落している。
② 3 階~ 1 4 階まで、3 通りC 3 柱横には、幅3 0 0 m m の袖壁があるが垂直スリットの施工が欠落している。
③ 同様に、3 階~ 1 4 階まで1 0 通りC 4 柱横には、幅3 0 0m m の袖壁があるが垂直スリットの施工が欠落している。
・北面B 通り
④ 3 階~ 1 4 階まで、4 ~ 5 通り間D 1 タイプ住戸の玄関北側外壁面( 長さ1 . 6 m ) には水平スリットが欠落している。
⑤ 3 階~ 1 4 階まで、9 ~ 1 0 通り間H タイプ住戸の洋室1 北側外壁面( K W 1 8 、長さ3 m ) には、水平スリットが欠落している。
⑥ 3 階~ 1 4 階まで、7 ~ 9 通り間のD 2 タイプ、及びG タイプ住戸の玄関北外壁面には、階によって水平スリットの欠落や部分的な欠落があり、ずさんな施工である。




■岩山健一氏 プロフィール■
一級建築士
株式会社日本建築検査研究所 代表取締役

■主な出演番組■
テレビ東京「完成!ドリームハウス」
テレビ朝日「スーパーモーニング」
テレビ朝日「やじうまプラス」
TBS「みのもんたの朝ズバッ」
KTV「痛快エブリデイ」


阪神淡路大震災をきっかけに住宅の欠陥検査に着手。平成10年日本建築検査研究所を立ち上げ、市場における欠陥住宅の発生予防とその解決および紛争の支援を行っている。不動産業者や建設業者等との一切の利害関係をもたない消費者の味方として、これまでに2000件を超える手抜き・欠陥住宅の回復、救済を多数手掛ける。

大阪大学名誉教授 鈴木計夫工学博士の鑑定意見書

構造スリットの欠落

(1)架構の中に壁があるか、構造スリットによってその壁が無い状態になるかは、構造設計上、架構の剛性、剛性分布、従って架構の応力分布を大きく変えてしまう。若し設計どおりでなければ、その設計仮定は成り立たなくなる、という大問題を発生させる。
(2)従って設計書どおりに所定の部分に構造スリットを設けなければならない。水平方向のスリットは“隙間”があれば良いと云えるが、鉛直スリットは地震時の水平移動量がどの位になるかを想定してその幅を決めなければならない。地震力が大となれば、その隙間は無くなる事も考慮しておく。



■鈴木計夫工学博士 プロフィール■
大阪大学名誉教授
吉林建築工程学院名誉教授
元 福井工業大学教授

(財)大阪建築防災センター
構造計算適合性判定業務 監視委員会 委員長
建築確認検査業務 監視委員会 委員長
日中建築構造技術交流会 名誉会長
(社)日本建築学会 司法支援建築会議 運営委員
大阪地方裁判所(最高裁判所人事) 専門委員
NPO法人 PC建築技術支援センター 理事長
(一社)関西建築構造設計事務所協会 名誉顧問
和歌山県建築構造設計協会 名誉顧問

控訴審調査での構造スリット欠落個所


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南面A 通りの構造スリットの欠落個所
(画像をクリックすると拡大します)



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北面B 通りの構造スリットの欠落個所
(画像をクリックすると拡大します)

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