■連載第3回■ 第二章 南辰と裁判に潜む魔物たち・前編

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マンガ版「覚くんの日記」第3話

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第二章 南辰と裁判に潜む魔物たち・前編
~南辰の悪意に満ちた四つの企み~


 
<いきなり頭に爆弾を落とされた!!>

①合計千三百五十箇所の手直し工事を再三の要請にもかかわらず、いっこうに着手せず、突然、現場から撤退し、唐突に提訴してきた。その理由とは?
 
 マンション屋上に二百四十五トンもの余分なコンクリートが増し打ちされていたことや、違法なコンクリートが使用されていた事実について、大津市と確認申請機関に事情を聴きに行ったところ、「そのような話は一切聞いていない」との返答だった。構造計算もNGであり、しかも届け出もされていない建築基準法違反のマンションであることが明らかだったため、覚くんは、大津市に調べてもらうようお願いに行った。
 

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覚くんは大津市に調べてもらうようお願いに行った。

 
 そもそも行政の許可を得て建築していたのだから、こんな瑕疵(かし)だらけのマンションを行政が放っておくはずがないと思っていた。だからこそ、覚くんは大津市にこの危険なマンションを調べていただきたいとお願いに行ったのである。
 しかし、大津市は、「対応できません」という回答に終始していた。覚くんの思いとは異なり、役所は民事事件には介入出来ない、「民事不介入の原則」があったのだ。これが、壁となり、役所は全く相談にも乗ってくれなかった。
 
 覚くんは、「やられた…。南辰の罠(わな)に嵌(は)められた」と思った。
 
 南辰は、こういった欠陥マンション問題に対する、役所の対応を熟知しており、民事不介入の原則を知っていたのだ。瑕疵が明らかになって行政が調査に入るのを恐れ、先手を打って、計画的に現場を引き揚げ、話し合いを先送りして訴訟に持ち込んできた。
 
「こんなことは、慣れている者にしかできない。南辰は同じことを他の物件でもやっているに違いない」と覚くんは思った。
 
 最初の施主(せしゅ)検査(第一回)で見つかった不具合箇所は、二週間以内に直すことで合意していたのに、南辰は着手せずに引き延ばしていた。そうこうしている間に、五十九戸の入居日が到来した。そもそも五百箇所の不具合箇所は、お客様の決まっていた五十九戸のみを検査した結果であった。
 覚くんは、五百箇所の手直しの完了を早く確認させてくれと、何度も南辰に頼んでいたのだが、南辰は、ユーザー検査時に第一回目施主検査の手直し完了確認も一緒に行ってほしいと求めてきた。
 覚くんがその申し出を受け入れたにもかかわらず、ユーザー検査当日、南辰と設計・監理事務所マサプランニングは、言葉巧みに理由をつけて大覚社員に五十九戸の手直し完了を確認させなかった。大覚は、共用部を含むマンション全ての検査、手直し工事が終わってからの鍵の引き渡しを求めていたが、お客様の入居日が決まっていたので仕方なく、それらの部屋の鍵の引き渡しを受けざるを得なかったのだ。
 南辰は、五十九室の鍵を渡すことにより、工事が完了した証(あかし)を作って、その後の裁判を有利に進めようとしていた。そこまで意図して、利用できるものは何でも利用しようとする老獪(ろうかい)な南辰。悪事を何度も繰り返し、さらに悪事に悪事を上塗りする。嘘、偽り、欺(あざむ)きによって狙(ねら)った獲物を陥(おとしい)れ、会社を拡大する強欲(ごうよく)な企業だ。
 覚くんは、このような会社が世の中に存在し、しかもその会社が関西の大手企業であり、上場していることに驚いた。
 六年間訴訟を続け、その過程でも恐るべき事実が続々と明らかになっている。
 
 
 南辰の協力者である工学博士二名(深山・飯田)は、いつも我社の証拠に対し、揚げ足をとったり、論点をすり替えたり、初めから答えありきの論理を展開し、本質からずれた主張を続けている。裁判ではいまだに屁理屈(へりくつ)を述べ、瑕疵がないと言い続けている。
 
 大覚が何度も依頼して、やっと第二回目の施主検査が平成二十一年十一月二十六日、二十七日に実施されることになった。今から思えば、南辰はその時すでに訴訟の段取りをしていたのだろう。施主検査で発覚した不具合などそもそも対応するつもりはなく、それ以降は訴訟の準備だけをしていたに違いない。そうでなければ、一月七日付の訴状が届くことなどあり得ない。しかし、そのような南辰の悪意に満ちた企みが進行していることなど、覚くんが知る由もなかった。
 
 第二回目の施主検査で八百五十箇所の新たな不具合が発覚したが、このときも、共用部は見せてもらえなかった。残りの四十九室しか検査させてもらえなかった。第一回、第二回施主検査の合計千三百五十箇所の不具合箇所を、第二回目の施主検査から二週間以内に直すことで南辰と合意していた。しかし、一週間過ぎても南辰が手直しに着手する様子がなかった。
「約束の日まで、あと一週間しかないですよ。早く手直ししてください。あと一週間で終わるんですか?」
 森副所長は覚くんの問いに対して黙って頷いた。
 覚くんは、期限内に対応してもらえると思い、その場を後にした。
 
 しかし、手直し工事の期限が到来しても全く工事に着手してもらえず、覚くんが不安に思っていたその時、不具合を放置したまま、現場を引き揚げていったのだ。
 
 その後に届いたのは、南辰からの訴状だった。建物が完成しているので、請負残代金約十五億円を支払えと請求してきたのだ。さらに追い打ちをかけるように、南辰は大覚が所有している他の物件に対して仮差し押さえをしてきた。
 覚くんは思った。
「完成もしていないし、そもそも、引き渡しも受けていない。不具合も直してもらっていない。鍵ももらっていない。共用部も見せてもらっていない。建物全部の検査も終わっていない。そんな状況で裁判と仮差し押さえをしてくるなんて、大手だからといって、上場している会社だからといって何でもできるんか。北海電鉄グループは関西トップの企業グループだ。そんな企業グループに属する南辰がまさかこんなことをするなんて、グループの会長は知っているのだろうか? こんなことが世の中にまかり通るなんておかしい。世の中狂ってる。マンションを完成させることなく放っておいて、話し合いの場を一回も持たずに、このマンション以外の大覚の物件まで仮差し押さえてくるなんて南辰は一体何を考えているんだ。自分らが建てたマンションに瑕疵がないというのなら、一室三千万円として四十九室なら約十五億円で売れる。これで十分請負残代金に値するではないか。大覚の他の物件まで仮差し押さえしてきたのは、このマンションには数多くの瑕疵があるため安くしか売れないことを認識していたから、このマンション以外の物件までも仮差し押さえしてきたのだ。明らかに南辰には悪意に満ちた企みがあったのだ」
 
 覚くんは頭に爆弾を落とされたような衝撃を受けた。
 
「この世に正義はないのか!! そもそも大覚は施主で、南辰にとってはお客さんであるはずなのに。仕事がないからと何度も頼みにきたので契約をしたというのにこんな仕打ちか!! 仕事をまわしてやった結果がこれか。いいマンションを建てますと何回も言っていたじゃないか」
 
 南辰は、資産価値の高い土地・物件を狙って仮差し押さえしてきた。
 例えば、琵琶湖を望む大津市内で一番大きな公園の中にある高台(たかだい)の三千坪の土地だ。大覚はシニアマンション建設を計画していた。全百六十室を一室あたり三千万円で販売すると約五十億円に上るマンションだ。役所と近隣住民と協議が終わっており、仮差し押さえがなければ、事業は遂行されていたのだ。まさにその土地で、現在、落札したT社が大規模な造成工事を行っている。T社は南辰が大津京に送り込んできた会社だ。南辰はこの得体の知れないT社を使ってこの土地に一体何を建てようとしているのだろう?

シニアマンション
大覚は大津市内で一番大きな公園の中にある高台の三千坪の土地でシニアマンション建設を計画していた。

 

造成工事
南辰が送り込んだT社が土地を落札し、大規模な造成工事を行っている。

 南辰はこっそりと我社の内部に人を送り込んで、社内の動きを調べさせ、我社を罠(わな)に嵌(は)めようとしていたのだ。
 我社が長年温めてきた計画を実現するための土地は、ついに拝金主義(はいきんしゅぎ)集団の餌食(えじき)になり、南辰に横取りされたのだ。南辰は初めから大覚をターゲットにして、罠に嵌めようと、計画的に裁判を起こしてきた。建築基準法に違反した工事をしておきながら、「行政の民事不介入」をいいことに裁判に持ち込み、大覚を追い込み、ついには大覚の資産を横取り。こんな盗人のようなやり方は、南辰のような拝金主義集団にしかできない商売だ。全てが計画的に行われていたのだが、南辰は他所でも同じことをしているに違いない(皆さん、拝金主義集団は気を付けないといけませんよ!)。南辰はT社を使って大津京で次に何を企んでいるのだろうか? これ以上南辰の仕組んだ罠に嵌って南辰の餌食にならないように我社も気をつけないといけない。皆さんも気を付けてください。

ドッグラン
大覚は以前この土地をドッグランとして運営していた。料金は一日百円で約三千坪の土地を京滋の動物愛好家のために開放していた。地元の方々の楽しみをなくしてはいけないと、大覚がシニアマンション建設の計画を先延ばしにしていたところ、そんなことなど意に介さず拝金主義集団は平気で乗っ取りに来たのだ。

 
ドッグラン案内
多くの地元の動物愛好家に愛されていたドッグランの案内

 
 また、京都市山科区の薬科大学から歩いて五分のところに約三百五十坪のマンション建設用地があった。大覚は女性用ワンルームマンション建設を計画し、すでに確認申請もおり、工事着手直前だった。パンフレットも準備でき、いつでも販売できる状況だった。

大学校舎
京都市山科区の薬科大学から歩いて五分のところに大覚のマンション建設用地があった。

 
マンション建設用地
女性用ワンルームマンションは工事着工直前で、パンフレットも準備でき、いつでも販売できる状況だった。

 
マンション建設用地
大覚がかつて所有していた京都市山科区のマンション建設用地は今でも更地(さらち)のままだ。

 
 さらに、事前にかなり調査しなければ分からないような、大津京駅に近い約二百世帯の分譲マンションの一室すら仮差し押さえしてきたのだ。

分譲マンション
南辰は事前にかなり調査しなければ分からないような、大津京駅に近い分譲マンションの一室すら仮差し押さえしてきた。

 つまり、大覚の所有する大津京駅前の優良物件に狙いを定め、訴訟提起を前提にしてかなり前から大覚について特殊部隊を組んで徹底的に調査していたに違いない。二百室の中の一室を大覚が所有していることを分かる訳がない。どうやって調べたのだろう。大覚社内に南辰に通じていた者がいたのだろうか…。
 これは、悪意に満ちた計画的、意図的な企てだと言わざるを得ない。すなわち、大覚の資産を手に入れるために、工事を請け負い、わざと問題を起こしたのではないだろうか。
 南辰は、初めから悪意を持って大覚の資産に狙いを定め、大覚に近付いてきたのではないか。
 

 
<瑕疵(かし)をもみ消すために…T社の投入> 
 
②不具合箇所の手直し工事も完了していない未完成のマンション。それにもかかわらず、南辰は四十九戸を買い取ろうとしてきた。その理由とは?
 
 南辰は、優しい言葉を巧みに使って言ってきた。
「大覚が資金に困っているのなら、販売価格の七十パーセントに当たる総額十億円で四十九戸を買い取ります。前渡金(ぜんときん)四億円はすでに頂いていますから、あと二億円だけ支払ってください」
 
 何か特別な意図があるような「含みのある提案」だった。
 
 しかし、大覚は、資金に窮しているわけでもなかったし、そもそも南辰の提案があまりにも不自然で信用することが出来なかったので、買い取りの申し出はすぐに断った。それよりも早く不具合箇所を直してもらい、予定通りマンションを分譲しようと考えていた。
 
 話合いを一回もせず、打ち合わせの場すら設けない南辰の買い取りの申し出はあまりにも不自然だ。今から思えば、一刻も早く残りの四十九戸を販売し、入居させたかったに違いない。南辰は買い取りの提案を大覚が断ることを前提に提案し、裁判への伏線(ふくせん)を張っていたに違いない。
 覚くんは、今思えば、南辰は、早く大覚から手を引かせて、建物の瑕疵が見つかって問題となることを阻止し、その後六年間で発覚した全ての瑕疵を大覚に押しつけようとしていたに違いない、と考えている。
 
 さらに南辰は、別の手段を講じてきた。南辰は一審で勝訴したことをいいことに、未入居の四十九戸を競売にかけてきた。すると、南辰の息のかかった不動産業者であるT社がこの四十九戸のうち三十六戸を落札してきた。つまりこのT社は南辰によって意図的にマンションに送り込まれたのだ。
 ある時、裁判長の前で南辰側の弁護士が大覚側に質問してきた。
「裁判官の現地見分について管理組合の承諾は得ているのですか?」
 T社が三十六戸を所有することにより、マンション管理組合に加入し、大覚の建物調査を阻止しよう企んでいるのだ。T社は落札した住戸を瑕疵のない物件として賃貸に出し、販売することも画策していた。マンションの各所に生活上の危険があることから、管理組合理事長が組合員に瑕疵を告知する掲示をしたことに対して、営業妨害だと言いがかりをつけてきた。そして、理事長に対して月額四百二十万円もの損害賠償を求める訴訟を起こしてきた。普通の会社員に過ぎない理事長に対する嫌がらせであった。まさに、拝金主義集団にしかできないことだ。
 
 そもそも南辰が建てたマンションなのに、南辰は一度も瑕疵についての住民説明会に来なかった。我社は、悩みに悩んで、困っている住民のために買い戻しに応じたが、これに要した金額は八億円にも上る。本来なら瑕疵のあるマンションを建設した南辰に責任があり、南辰が買い戻すべきだが、大覚が対応せざるを得なかった。それなのに、南辰は大覚が買い戻しに応じた部屋さえも競売にかけ、南辰の手先のT社に落札させた。大津市山上町の三千坪の土地を落札したのもT社だった。南辰はT社と共謀し、大津京ステーションプレイスだけでなく周辺の土地も手に入れて、大津京でどんな悪事を企んでいたのだろう。
 
 聞いたところによると、南辰は同じような手口でたくさんの不動産を手に入れており、多数の企業が南辰の手練手管(てれんてくだ)に嵌められて倒産に追い込まれた。

<マンションに時限爆弾を仕掛けた南辰>

③施主検査の日程・進行を意図的に遅らせ、屋上、電気室、地下ピットなどの共用部検査を執拗(しつよう)に拒(こば)んだ。その理由とは?
 
 覚くんがこれまでの二五五五日を振り返ると、このマンションの瑕疵は挙げればきりがない。
 
 電気室には六千六百ボルトもの高圧トランスが設置されているすぐそばを直径二十五センチの排水管が通っている。漏水があれば感電し、隣にあるキッズルームで遊んでいる子供たちの命が危険にさらされることもあり得る。こんな恐ろしいマンションを、南辰は何を企んで建てたのだろう。
 
 防水検査では屋根がウォーターベッドのようになり、防水が全く効いていないことが明らかとなった。そのため最上階である十四階は雨漏りで全滅。本当にひどいマンションだ。このマンションはまさに瑕疵のオンパレードだ。
 
屋上ウォーターベッド
防水検査では防水層の下に雨水が入り込みウォーターベッドのようになった。

 
 皆さん、こんなひどいマンションを建てた会社が上場企業として存在しているのですよ。そして六年が経った今でも、瑕疵がないと裁判で言い続け、二百五十もの意味不明な証拠を提出してきています。膨大な資料を用意しなければ、瑕疵がないという主張を証明できないこと自体が、普通では考えられないような瑕疵が存在していることを物語っているのです。
 
 南辰は大覚に対してひたすら瑕疵を隠そうとしていた。だから、共用部の検査で瑕疵が発覚することを阻止しようと、意図的に検査を拒み、言葉巧みに大覚を騙(だま)し続けていたのだ。
 死亡事故が起きてもおかしくないようなマンション。関係者全てを騙し続けて施工した、いつ時限爆弾が爆発するかも分からない危険な建物だ。
 
 南辰の仕掛けた膨大な数の時限爆弾(瑕疵)の一部を具体的に見てみたい。
 
●電気室

電気室
六千六百ボルトという高圧な電気が流れる電気室に水の配管が設置されていた。

 
 このマンションの電気室には、あってはならない水の配管が設置されていた。本来、六千六百ボルトという高圧な電気が流れる電気室には、漏電(ろうでん)・感電を避けるため水の配管などあってはならない。
 何故、このような工事がまかり通ったのだろうか?
 ある時、覚くんが関西電力を現場に呼び、検査時の事情を聞いたところ、
「以前に私たちが検査しているときは、こんな配管は無かったんですけど」
「ほんとですか」
「もし水の配管があれば検査が通るわけがありません」
「どうしたらいいんですか?」と覚くん。
「すぐに水の配管を撤去してください」
「施工したのは、南辰ですよ」
「是正命令(ぜせいめいれい)を大覚さんに出しますので、すぐに(南辰に)直させてください。このままでは非常に危険です。一刻も早く直して下さい」
「はい、わかりました」と覚くんは関電社員に言った。
しばらくして、関西電力から大覚に是正命令が届いた。
 
●防風スクリーンの落下

防風スクリーン残骸
十四階から落下した防風スクリーンの残骸(ざんがい)

 
 平成二十五年九月十六日、朝の五時に大津京ステーションプレイスの隣のマンション住人から大覚の社員に連絡が入った。台風により十四階共用部廊下の防風スクリーンが落下し、周辺に多大な被害をもたらした。近隣マンション駐車場の車五台に防風スクリーンが直撃し破損、さらに近隣店舗の壁を直撃した。防風スクリーンは隣のマンションの受水槽(じゅすいそう)にも直撃し、断水をもたらした。すぐ近くにJRと京阪電鉄があり、一歩間違えば大惨事になっていたに違いない。
 そもそも、防風スクリーンとは各住戸の玄関の前に設置されており、突風などで玄関の扉を開けた時、風圧で押され部屋の内側から開けにくくならないように風をさえぎる目的で設置されているものである。当然ながら、台風などの強風にも耐えられる強度が必要とされる。
 

駐車場の車
近隣マンション駐車場の車五台に防風スクリーンが直撃し破損した。

 
 落下した理由は、防風スクリーンの取付方に数々の手抜き工事があったからだ。たとえば、防風スクリーンを固定する金物の厚さが薄かった(わずか二ミリ)。しかも、強度がないアルミ製であった。
 マンション管理組合は、南辰に対してすぐに防風スクリーンを直してくださいと依頼した。
 すぐに直しに来ると思っていのだが、南辰からは何の連絡もなかった。台風被害の翌日、覚くんはマンションを見に行った。防風スクリーンが駅のほうに落下していたとしたらどんな大惨事になっていただろう。想像しただけで身震いがした。マンション住人が近づかないように貼り紙を出した。その帰り道、南辰役員、建築営業課長ら三人が防風スクリーンの被害をこっそり見に来ていたところに出くわした。
 覚くんは声をかけた。
「直しにきてくれたのですか」
 すると三人は何も答えず、こそこそと逃げ去ろうとした。
「ちょっと待って」と、覚くんが言うと、
「いえ。ちょっと確認しに来ただけです。後日連絡します」と言って三人は足早に帰って行った。
 
 管理組合は、近隣マンション住民の車五台の破損、近隣店舗の壁の破損、受水槽の故障に対して弁償するよう南辰に書面で申し入れた。
 すると南辰の社長から管理組合に一通の書面が届いた。
「瑕疵はない。弁償はできません」という内容であった。

管理組合に届いた書面
南辰の社長から管理組合に届いた書面(下に拡大図あり)

 
瑕疵は存在せず
南辰の社長から届いた書面には「瑕疵は存在せず」と書かれていた。

 
 その後も管理組合は何回も南辰とやりとりをしたが、「瑕疵は存在せず」を繰り返すのみだった。結局、マンション管理組合が約百七十万円を支払って弁償することになった。南辰は「一切、瑕疵はない」と言って、弁償金を払うことはなかった。

弁償
周辺住民に与えた損害はマンション管理組合が約百七十万円を支払って弁償した。

 
「瑕疵は存在せず」と言っておきながら、南辰は台風で壊れた箇所だけでなく全ての防風スクリーン取付箇所を補修しにやってきた。やって来た担当者はいかにも瑕疵がなかったかのような高飛車(たかびしゃ)な態度であった。後で防風スクリーンを覚くんが点検すると、アルミ製の薄い金具から分厚いステンレス製の金具に変更されていた。しかも、落下した防風スクリーン以外の金具も全てステンレス製に交換されていた。しかし部品は間に合わせに近くのホームセンターで購入したり、補修した結果も触れば手が切れるような危険な状態のままであるなど、相変わらずずさんで、安全性を無視した工事を繰り返していた。
 
 覚くんが当時を思い出すと、南辰の担当者はダンボールに無造作に入れられた部品を抱えてマンション十四階にやって来た。折れ曲がった固定金物を無理やり取り除いていた。コンクリートの破片が飛び散っていた。その後の作業も雑だった。
 覚くんは南辰担当者に声をかけた。
「どのような材料を使って、どんな方法で直すのですか? 説明してください」
「今見てもらっている通りです。後は私らだけでやりますんで、もう大覚さんは帰ってもらって結構です。大覚さんの立会いは困ります」と南辰担当者はぶっきらぼうに答えた。
 担当者の態度が悪いことに、覚くんはカチンときたが、ここで喧嘩をしてはいけないと思い、南辰の補修工事を見守った。
 南辰は「瑕疵は存在せず」と言っておきながら、大覚の立会いを拒んで、落下した防風スクリーン以外の箇所もこっそりと直したかったのだ。
 南辰が補修した結果は触れば手が切れるような危険な状態だった。

触れば手が切れる
南辰が補修した結果は触れば手が切れるような危険な状態だった。
 
 防風スクリーンがもし西側に落下していたら、電車に当たって大惨事になっていたかもしれない。人に当たれば、大事故になっていたことだろう。
 まさに爆弾が仕掛けられたマンションだ。

触れば手が切れる
マンションの西側にはJRと京阪電鉄の駅があり、駅に落下していたら大惨事になっていたかもしれない

 
●地下ピット
 
 危険な工事はまだまだある。
 
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入居から半年足らずで地下ピットが水浸しになった。漏水は今でも続いている。

 
 立体駐車場は、現在でも水没して使用できない状況にある。
 第一回、第二回の施主検査では南辰にいろいろな理由をつけられて見せてもらえなかった。入居が始まって間もなく、立体駐車場使用中に突然パレットが外れる事故があった。調査のために点検口から人が入ろうとしたが入れない。なんと、パレットが点検口に載っていて点検口の蓋(ふた)が開かない。点検口が無いに等しい。調べてみると、点検口の下に設置されているタラップは片側しか溶接されておらず、強度が十分でないため人が乗ると簡単に折れ曲がってしまった。危険極まりないずさんな工事だ。
 立体駐車場地下ピットは入居から半年足らずで水浸しになった。
 
点検口蓋
パレットが点検口(てんけんこう)に載っていて点検口の蓋が開かない。

 
タラップ
点検口の下に設置されているタラップは片側しか溶接されておらず、強度が十分でないため手でも簡単に折れ曲がってしまうという、非常に危険なものだった。タラップは六十センチ間隔で設置されているが、安全を確保するには通常は三十センチ間隔で取付けなければならない。昇降スペースも非常に狭く、チェーンやパレットが邪魔で昇り降りするのに支障がある。

 
 地下ピット内ではコンクリートにひび割れやジャンカが多数見つかった。全部で三千箇所以上あった。大覚が調査をすると止水板(しすいばん)が入っていなかった。余分な排水口が数多く開けられていた。工事ミスで水が通らないところに排水口が開けられ、鉄筋がむき出しになっていた。さらに、水の流れがほとんど逆勾配(ぎゃくこうばい)になっており、ずさんな工事が次々に明らかになった。ガソリントラップも全く関係のない場所に設置されており機能していなかった。

地下ピットコンクリートひび割れ
漏水の跡が残る地下ピット内のコンクリートひび割れ

ジャンカ
地下ピット内ではコンクリートにひび割れやジャンカが多数見つかった。

 
 エレベータの下は、本来であれば砂などを入れるのだが、何故か空洞になっていた。その他にも不明な地下の空洞が多数見つかった。
 
●屋上工事の不備
 
 マンション屋上も施主検査で見せてもらえなかった共用部だ。
 大覚が調査すると、パラペットの立ち上がりが四センチしかなかった。通常であればパラペットの立ち上がりが二十五センチ以上なければならない。二百四十五トンのコンクリートの増し打ちで、屋根の形状がおかしい。パターゴルフ場のように波打っている。
 
波打っているマンション屋上
パターゴルフ場のように波打っているマンション屋上

 
パターゴルフ場
パターゴルフ場ならば起伏(きふく)のあるコースは不思議ではないが…

 このコンクリートの増し打ちは確認申請の届け出も出されていなかった。確認検査機関、大津市に確認したところ、南辰から確認申請の計画変更が出された事実はなかった。
 二百四十五トンもの余分なコンクリートがマンション屋上に載っていることは建物の耐震性に重大な影響を及ぼし、地震が来たら崩壊する危険さえ考えられる。
 南辰は悪意を持って故意に時限爆弾が埋まったマンションを建設したのだろうか? これは何を意味しているのだろう?
 こんな瑕疵だらけのマンションは普通では建てられない。建てようと思っても建てられないような瑕疵の多さであり、崩壊(ほうかい)の危険すらある。南辰は何かを意図的に企み、計画的にこのマンションを建てたに違いない。施主大覚をどうしようと企んでいたのだろう。老獪(ろうかい)な南辰の究極の悪だくみがこのマンション建設に隠されているのだ。
 
 建築基準法違反の建物を施工しながら、黙って大覚に引き渡そうとした。これが後から分かれば、耐震偽装として大覚は住民から訴えられる。風評被害となりこれまでに分譲した物件も全ての検査を要求されるなど、莫大な費用が発生することは明らかで、地元での事業継続が全くできない状況に陥る。
 
 まさに、爆弾マンション。その実態を隠すために、南辰は執拗にひたすら共用部の検査を拒み続けたのである。
 
 南辰の仕掛けた時限爆弾、すなわち瑕疵のオンパレードの現状について、覚くんは言いたいことがある。
 
 全国の皆さん、これだけ瑕疵のあるマンションを建てておきながら、南辰社長は「瑕疵がない」と未だに言い続けています。このマンションの瑕疵の現状を見て「瑕疵がない」と言えるとしたら、頭がおかしいのではないでしょうか。脳が腐敗しているのかもしれません…。そんな腐敗した企業であっても南辰は関西を代表する北海電鉄グループのグループ企業です。南辰はこれまで、地方の中小企業である我社の必死の抵抗を力で抑えようとしてきました。しかし、多くの人々が見守るこの裁判で我社を力で捻(ね)じ伏せようとするのには無理があるのではないでしょうか。
 
 北海電鉄の会長さん。北海電鉄は人の命を預かる会社でしょう。毎日、電車に乗って通勤通学しているのは命ある人々ですよ。たいせつな、たいせつな命ですよ。そのグループ企業である南辰が住民の命を脅かすような危険なマンションを建てておいて、今まで解決に動こうとせず、放っておくというのはどういうことですか?
 会長さんは知っているのですか? 南辰の協力者の工学博士二名は瑕疵の現場を一回も見に来ていないのに、裁判で二百五十もの反論を繰り広げ、瑕疵がないと言い続けています。現場も見ないで屁理屈(へりくつ)だけ述べているというのは、南辰さんも、学者さんもおかしい、と思いませんか。

<悪事を極めた南辰>
 
④一審判決後、金利を止めるための合意をしたのにもかかわらず、その合意を三回も反故(ほご)にした。その理由とは?
 
 (覚くんの回想)
 マンション事業から撤退した東建物から我社がこの土地を購入した時から、この問題が始まった。
 マンションを建設させてほしいとの南辰からの申し出が何度もあった。南辰は設計事務所マサプランニングとともになんとか工事させてほしいと言ってきた。東建物から我社がその土地を購入したことを聞きつけてのことだった。しかし我社は南辰の申し出を何度も断った。
 東建物と同じ支払条件で建てると言ってきたが我社は断った。東建物から頼まれたから土地を買っただけだ。この土地にマンションを建てるつもりはなかった。にもかかわらず、何度も我社に頼んできた。仕事がないんです。この仕事ができなかったら困るんです、と日参してきたのは南辰側だ。何度も断ったが、そもそも覚くんは南辰という会社を知らなかった。
「他の業者より良いマンションを建てます」と南辰の役員が入れ替わり立ち替わり頼みに来た。それでも覚くんは断った。マサプランニング社長と南辰が何度も頭を下げて頼みに来たのだ。
「絶対、いいマンションを建てます。お願いします」と言ってきたのは南辰ではないか。度重なる申し出に根負けして、南辰を信用したのが間違いだった。
 
 実際の建物は、瑕疵だらけだ。竣工を控えたある日、覚くんがマンションを見に行くと、契約図面とは異なるエントランスの天井・下水(げすい)枡(ます)、仕様の異なるタイルが見つかった。建物には全面的に無茶苦茶な施工がされている。それらについて手直しを依頼するために、金谷所長、マサプランニング社長を呼んで会議を行った。その席で、彼らはいかにも喧嘩を仕掛けているような態度だった。金谷所長は、頬(ほお)杖(づえ)をついていた。
「あなたは会社でもそんな態度をとっているのか」と覚くんが注意したところ、今度はふんぞり返っていた。南辰側は皆横柄な態度だった。施主に接する態度ではないと、覚くんは思った。彼らの態度から、我社を挑発(ちょうはつ)していることが分かった。覚くんは、彼らの挑発に乗ってはいけないと思い、冷静になってゆっくりと話しかけた。
「我社は施主ですよ。あなたの会社の下請ではないのですよ。さっきから見ていると、あなた方の態度は施主に接する態度とは思えません。こんな状況では仕事になりません。会議になりません。今日で引き揚げてください。続きは他社でやります。ここで清算しましょう」と覚くんが言うと、そこから金谷所長とマサプランニング社長の態度が少しずつ変わってきた。
「今度はちゃんとやりますから」と金谷所長は泣きそうな顔をして懇願してきた。マサプランニング社長と金谷所長は何度も頭を下げて覚くんに謝った。
 疑いは残ったけれども、なんとか覚くんは説得させられた。
「マンションをとにかく完成させなければならない。引き続き南辰に工事をさせて、もしだめだったら、その時にもう一度考えればいい」と覚くんは自分に言い聞かせて、納得しようとした。
 今思えば、南辰は最初から喧嘩別れをする段取りでこの会議に臨(のぞ)んだのかもしれない。
 
 その矢先の出来事だった。
 三〇二号室の奥さんが大覚に来られて、たまたま覚くんが対応した。
「雨が降ったら夜中に大きな音がするんです」
 覚くんはすぐに現場に向かい調査を始めた。三〇二号室の下には、雨水貯留槽(うすいちょりゅうそう)と呼ばれる地下ピットがあり、覚くんはそこが怪しいと思った。点検口をあけると、ものすごい水が轟音(ごうおん)とともに滝のように落ちていた。点検口から下に降りようとすると、そこにあるべき、梯子(はしご)がずれて施工されていた。さらに途中から針金でボロボロに錆(さ)びている梯子が括(くく)られていた。
 
「こんな梯子に人が乗ったら事故になる。こんなひどい工事を南辰はわざとやったのだろうか?」と覚くんは思った。
「これはひどすぎる。こんな危険な工事は死亡事故の恐れもある。危険であることは誰の目から見ても明らかだ。これは刑事事件だ。警察に調べてもらわないといけない」

雨水貯留槽
雨水貯留槽の点検口をあけるとものすごい水が轟音とともに滝のように落ちていた。

 
雨水貯留槽錆びている梯子
雨水貯留槽の点検口の下に設置されたタラップは途中から針金でボロボロに錆びている梯子が括られていた。

 
 覚くんはすぐに金谷を呼んだ。しかし、金谷は来なかった。その代わりに副所長の森がやって来た。
 これが事の始まりだった。数日後には立体駐車場のパレットが突然外れたので、調べようとすると点検口が無かった。なんとかして下に降りてみたら立体駐車場が水浸しになっていた。そこから今回の瑕疵のオンパレートが始まった。
 
 普通は、弁護士同士が合意したのだから、その約束が履行(りこう)されるのが当然である。
そもそも十四・六パーセントの金利の相殺は、一遍(いっぺん)弁護士が弊社に黙って裁判で主張したものであり、我社は全く関知していなかった。
 一遍弁護士は、口癖のように、我社に対して「勝てる。勝てる」と言っていただけで、訴訟の詳しい説明は全くなかった。敗訴した場合のリスクも一切説明が無かった。裁判中でも、一遍(いっぺん)弁護士は全く発言をしておらず、相手方の弁護士も一切反論等してこなかった。十分か十五分くらいで、裁判がいつも終わっていた。その後の打ち合わせも無く、おかしな裁判が続いていた。
 この一遍弁護士について調べてみると、北海電鉄の会社の近隣に居住していることが分かった。
 
 裁判だけではなく、工事においてもいろいろな疑惑が浮かんでいる。
 覚くんが一度か二度、現場を見に行った際も現場所長の金谷は挨拶ひとつしに来なかった。
「おかしいな。でも、現場が忙しいのだろう」と覚くんは思った。
 南辰本社から安全パトロールに一回も来ていない。工事の定例会議にも大覚は呼ばれなかった。下請け業者の名簿も提出してこなかった。四つの図面があり減額した図面で工事を行っていたので契約自体がでたらめだった。工程表の提出も受けていない。施主検査を実施していない。まさにでたらめな工事であった。
 
 追加工事を勝手に行い、請負代金を増額させている。追加工事については、一回も我社と話し合っていない。勝手にスペックダウンして原価も不当に減額(げんがく)したのに減額分は加味せず、増額分だけおりこんで請求をして来た。その金額までも支払えというのか。
 
 危険なマンションを建てたのは南辰。千箇所以上の瑕疵を造ったのも南辰。そんな状況にもかかわらず、「元金を払ったら、金利を十四・六パーセントから三パーセントに下げてあげる。大覚の物件の差し押さえも解除してあげる。支払方法も相談に応じてあげる」と南辰は申し入れてきた。
 
 今思えば、これは「悪魔の囁(ささや)き」だった。
 
 金利のストレスを無くすため、鬼弁、会社幹部もその申し出を受け入れようとしていた。我社が勝訴すれば六パーセントの金利がつくこともあり、我社の幹部も覚くんに支払うよう説得を試みた。
 しかし、覚くんはお金を支払ったら戦意を失ってしまうことから、社員の説得を拒んでいた。
 毎日六十万円の金利も大変だからと、弁護士も引き続き説得を試みた。
 覚くんは、会社の意見が統一できず、会社が空中分解することを懸念して、支払の申し出を受け入れることにした。
 話し合いの結果、残代金十五億円を二回に分け、その年の六月に六億円、残りの九億円を翌年四月に支払うことで合意した。
 ところが、大覚が最初の支払いの準備をした矢先に南辰から連絡があった。なんと、翌年四月の九億円の支払いを一カ月前倒しにして三月に支払えと言ってきたのだ。従わなければこの話は無効にするとも言われた。
 覚くんは住民との合意解除により合計八億円もの払い戻しに応じており、一カ月支払いを早めるということは資金繰りに大きな影響を与えるものであった。
 覚くんはその要求を断ろうとした。しかしながら、鬼弁、会社幹部らのたび重なる説得にやむを得ず、しぶしぶ前倒しの要求を受け入れることにした。
 さらに、その数日後、東京の鬼弁の事務所で打ち合わせをしている際、再び南辰から支払期限前倒しの要求が届けられた。今度は、六月に六億円、九月に三億円、十二月に三億円、翌年三月に三億円を支払えと言ってきたのだ。
 覚くんは鬼弁と激しい口論(こうろん)になった。一回、二回目は辛抱できる。三回目は我慢できない。覚くんはこれ以降、南辰を全く信用できなくなった。南辰は、我社を追い込もうとして支払条件を変更してきている。瑕疵だらけのマンションを建てたのは南辰、こんな不条理な申し出は無い。この申し出を受け入れたとしても、また変更を要求していることは明らかだった。これ以上、南辰を信用するわけにはいかない。弁護士同士の約束を三回も反故にする会社をどうやって信用しろというのだ。これを呑んでもまた何かを言ってくる。南辰の企みがだんだんと明らかになって来た。南辰のむき出しの悪意に屈するわけにはいかない。
 
 
 
<南辰の他にも魔物が潜んでいた>
 

 平成二十四年十二月ごろ、「来年の二月二十六日に判決を言い渡します」と裁判官に突然言われた。

 覚くんはなんのことか理解できなかった。まだ、裁判でこちらの主張、立証がきちんとできていなかったからだ。
 覚くんは一遍弁護士に質問した。
「まだ、構造計算以外の瑕疵や、我社に対する風評被害など、たくさん言いたいことがあるのに、大丈夫なんですか」と聞いた。
 一遍弁護士は「大丈夫。建て替えは認められます」ときっぱりと言った。
「本当に大丈夫なんですか?」と覚くんは再度確認した。
 一遍弁護士は自信を持って覚くんに言った。
「南辰からは、こちらが提出したNGの構造計算に対して何の反論もありませんでした。ということはこちらの主張を全面的に認めたということです。何も反論がなかったし、裁判所からもこちらのNGの構造計算に対して質問がありませんでした。だから、こちらの全面勝訴です。建て替えが認められます。裁判長は今頃、大覚が勝訴した判決文を書いています。覚くん、安心してください」
 覚くんは一遍弁護士の自信に満ちた言葉を聞いて、より一層安心し、三年間の闘いを振り返って、安堵した。社員たちと握手し、「よかった、よかった」とその夜は会食を催した。
 一遍弁護士は別れ際に覚くんに言った。
「勝訴は間違いありませんから、心配はいりません」
 一遍弁護士は、覚くんと握手して別れた。
 
 しかし、裁判の結果は…
 
 結局、弁護士の言うことは全部でたらめだった。専門委員の言っていたことも嘘、嘘、嘘のオンパレードだった。一遍弁護士も助手の成瀬もよくあれだけウソをつけたものだ。覚くんにしてみれば、弁護士なのだからこちらの依頼に対してきちんと対応してもらっていると思っていたのだったが…
 三年間の裁判では、一遍弁護士も相手の弁護士もほとんど話をしていない。裁判はいつも十分程度で終わっていた。議論も尽くされていない。打ち合わせもほとんどされていない。その結果、大覚の全面敗訴だったのだ。
 その挙句に一日に六十万円、ひと月に千八百万円、一年間に二億二千万円の遅延損害金がのしかかってきたのだ。
 
 覚くんは判決が言い渡された日の夜、声も出ず、一睡もできず、自分の人生がここで終わってしまったようで、これまでの出来事が走馬灯のように頭をかすめた。
 
 覚くんは気付いた。
「建築裁判では全て当事者が立証しなければならない。裁判は自分自身が闘わなければならない。自分自身のため、会社の為にもこの裁判は絶対に負けられない。また、欠陥住宅をつかまされ、だまされている人達のため、世の中のためにも絶対に負けられない」
 
 あっという間に二七三二日が経った。これまでに覚くんが裁判に費やした金額はあっという間に三十三億円に上った!!
 
「負けたのだから払いなさい」
 
 これが第一審弁護士の捨(す)て台詞(ぜりふ)。
 その言葉が意味するところは何か???
 
 
 次回(第二章・後編)、第一審での不思議な出来事、謀略、企み、悪魔の計画の全てが明らかになります。
 
(後編に続く)

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■連載第4回:『第二章 南辰と裁判に潜む魔物たち ・ 後編 ~裁判には莫大な資金と労力、時間が要求されます。弁護士は自分自身です~』

 
 
 
 
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